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七0年代になっても、相変わらず家内制手工業的な金型製造が続いていたのである。

金型部品を半製品として規格化し、カタログ式の通信販売に乗り出した。 商品の写真や規格、価格、納期などがこと細かに掲載されたカタログを発行し、定価販売を行った。
そして受注してからわずか三営業日程度で届けるシステムを作り上げてしまったのである。 Mは営業マンを廃し、カタログ通販に販路を一本化することでコストを削減。
さらに全国に散らばる顧客メーカーと、金型製造メーカーをネットワーク化することで、需給を最適化した。 顧客からはわずか一日数個の発注しかなくても、全国の顧客から集まった受注を集めることによって、低コストで量産できるようになったのだ。
このMのビジネスは、金型業界に革命を起こした。 Mのカタログから申し込めばすぐに金型が入手できるため、部品倉庫が不要になってしまった企業も少なくなかった。
Mは独力で、新たなオープン市場を作り上げてしまったのである。 このシステムを作り上げたのは、同社の創業経営者だったT氏(現相談役)だった。
T前社長のアイデアと実行力、事業を展開していくためのマネジメント能力は圧倒的だったと言っていい。 だがMの事業展開は、これだけでは終わらなかった。
カタログ通販によるB2B(法人間取引)という仕組みを最大限に利用し、金型部品以外のさまざまな部品や原材料などに業態を広げていったのだ。 Mの公式ウェブサイトによると、同社は現在、次のような分野でカタログ通販を行っている。
もともとは機械関連専門の企業だったはずなのに、現在では医療やDTP、外食といった市場にまで参入していることに驚かされる。 居酒屋やレストラン向けにエビや肉などの食材まで販売しているのである。
そしてこうした業態の新たな展開を行ったのは、実は創業者のT氏ではなく、役員や執行役員などの経営チ−ムのメンバーだった。 もともとの同社のコアコンピタンス(他社にマネできない核となる能力)だった金型通販のビジネスモデルをコピーし、新しい事業を次々と作り上げていったのだ。

医療や外食、DTPといった自社のフィールドとは異なるまったく新しい業態に進出するためには、新しい血が必要である。 どうしても自社の従来のメンバーだけでは、限界がある。
その意味で、Mという企業は卓越した創業経営者と、そしてそれを支えて新たな成長性を生み出す経営チ−ムがうまくリンクした素晴らしい事例と言えるだろう。 Mのようなケースは、ほかにもたくさんある。
たとえば、Rが行っている「R大学」。 これはR市場の出店者向けのセミナーで、過去の豊富な成功事例や失敗事例を分析・体系化し、「ノウハウのフレームワーク」としてまとめた販売支援プログラムである。
出店させてしまえば後は放置し、儲かろうがどうなろうが関知しないというオンラインショッピングモ−ルが少なくなかった中にあって、R大学は運営会社側のサポート体制の一環として、出店者からも高い評価を得ている。 このR大学を立ち上げたのは、RのM社長ではない。
R出身で、雑誌の求人広告を見てRに入社してきたK氏である。 経沢氏はその後独立し、二十六歳で情報サービス会社のトレンダ−ズを設立し、社長に就任している。
Rには経沢氏のような人材が次々に集まってきており、そうした人材が新たな事業や新たな業態への参入を行うパワ−の源泉となっている。 こうした例は、枚挙にいとまがない。
成功し続けているベンチャー企業を見渡せば、まだいくらでも同じような事例が見つかるだろう。 経営メンバーが生み出す三つの価値−ひとつめは新ニーズの創出では、こうした成功し続けている企業では、経営メンバーはいったいどのような価値を生み出すことができているのだろうか。
私は、そこには三つのカギがあると思っている。 まず第一のカギは、新たなニ−ズを生み出すという価値である。

簡単に言えば、従来から自分の会社が持っているプラットフォームや流通チャネル、人材などを生かし、新たな商売を作り上げるという価値だ。 たとえば出版社だったら、新たな市場を開発して新雑誌を創刊する。
飲食店ビジネスだったら、新しい店舗業態を開発して新たなチェーン展開を行う。 間違えてはならないのは、現在のビジネスの枠組みから一歩も出ないような新ビジネスを行っても、それは新たなニーズを生み出すことにはならないことだ。
たとえば居酒屋のチェーン展開を行っている会社があって、そこが従来型と同じ新宿舗をどこかの駅前に出店するというのでは、新ニ−ズにはならない。 しょせんは現在のビジネスの延長線で仕事を行っているに過ぎない。
そうではなく、もし居酒屋だったらこれまでのノウハウや人材、物流などのシステムをうまく再利用し、たとえば回転寿司のチェーンや天ぷら屋のチェーンを新たに作る。 ゼロから始めるのではなく、これまでの店舗や仕入れのノウハウは有効利用できるけれども、まったく新しい儲けの仕組みを作る。
そしてその事業責任者に経営チ−ムのメンバーが座り、みずからの能力をフルに使って責任を持って事業を遂行する。 そんなやり方が、新たなニ−ズの開発ということになるのである。
雑誌でも、それは同じだ。 私はRで長く雑誌の仕事に携わってきたが、たとえばある雑誌で新しい記事を書く、新たな連載を始めるというだけでは、それは新しいニーズの開発にはならない。

現場のル−テインワ−クの一環でしかない。 そうではなく、新雑誌を創刊したり、あるいは雑誌という枠組みや読者のネットワークなどをうまく使って、何か新しいビジネスを始めた時、それは新ニ−ズの創造へとつながっていくのである。
さらに例を挙げれば、たとえば自動車メーカー。 ニュ−モデルを投入するというだけでは、それは粛々と進めるべき事業計画のひとつでしかない。
単なる新製品の発売ではなく、たとえば自動車のディーラーや異業種企業などと組んでマーケティング戦略を立て、まったく新しい車を作り出すといった事業を行って初めて、自動車メーカーは新ニ−ズの創造を行ったと言えるようになる。 レンタルビデオチェーンの場合はどうだろう。
たとえば既存のビデオチェーンをさらに拡大するため、東北地方に進出して新規の店舗展開を行うというのは、業務としてはたいへんだけれども、新たな価値が生まれるわけではない。 そうした新規の店舗展開は現場の担当者に任せればいい案件であって、経営者や経営メンバーがわざわざ知恵を絞ることではない。
彼らがやるべきことは、たとえばこれまでの店舗チェーンをうまく活用し、ビデオレンタルのビジネスモデルを応用して、誰も思いつかなかったような新たなビジネスモデルを創造することである。 自分の会社が持っているビジネスモデルをコピーし、それをうまく加工して、そしてオリジナルのビジネスを作り上げ、新たな商品を開発していく。
それが経営メンバーが生み出すことのできる、第一の価値である。 そしてこうした新しいニ−ズの創造は、現場の社員レベルで遂行できることではない。
なぜならそうした新しい事業は、会社にとって大きなリスクを伴うからだ。 新しい事業領域を生み出し、さらには先に紹介したMのように、新たな市場をひとつ生み出してしまうほどのインパクトがある。

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